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超高齢社会における医療と介護

講演日:平成28年5月29日
講演者:介護老人福祉施設しょうわ理事長  佐藤龍司

これからの高齢化社会についてどうしようか、という厳しい話をします。

1.当たり前のことを
当たり前に行う

多くの老人ホームで行われていること、あなたはできますか。例えば、人前でオムツにおしっこをしたり、ビニールエプロンをつけて、レストランで食事をすることなど。1日中何もしないで天井を見て過ごしていると、体が硬くなって動かなくなります。最先端の設備の有無だけでなく、そのサービスの中身についてもチェックしていただきたいです。
裸でゴンドラリフトに乗って吊り下げられ、沈められる機械浴は、介護職員の怪我防止になっていますが、利用者目線では、そんなお風呂に入りたくないと感じるものです。

2.尊厳がなければ
人は生きられない

当たり前のことを当たり前にやりながら暮らしていける環境を提供するのが私たちの役目です。尊厳がなければ、人は生きられません。歳をとると骨折しやすくなりますが、骨折を恐れて車椅子に縛り付けていると、人は歩けなくなります。施設で当たり前と思うことは利用者にとって当たり前ではありません。車椅子に縛り付けて、混ぜご飯と刻み食を食べていると笑顔がなくなり、家族の足が遠のきます。施設が、尊厳ある生き方を提供することが大切です。

3.正常と異常、常識と非常識

正常と異常、常識と非常識のどこに境界線を引くかで、見えてくる世界が変わり、その人の可能性やチャンスが広がります。流動食だったのに握り飯が食べられたり、大声を出す行為を腹筋を使った発声練習と見る。大声を出せるから肺炎の際に咳ができて痰を出せます。大声を野放しにしておくことにも意味があります。歩くと海馬の神経細胞が再生すると言われていて、徘徊するのは良いこととも言えます。境界線の引き方により、介護地獄になるのか、楽しくはないが介護してよかった、と思えるかが変わります。自分を「こうでなければならない」と追いつめると、息苦しくなります。

4.これからの医療、
介護サービスが
進まなければならない道

日本は、既に高齢になってしまった社会で、多死社会になっています。日本一の高齢化率の埼玉県の中でも春日部市は一番高齢化が進んでいる市です。これが税収・保険料減少に繋がり、原資が増えないので社会保障費は抑制され、介護業界の給料は増えない、減っていく構造になっています。 対策として所属税増税が必要で、しなければ財政破綻を招きます。

5.パイの取り合い

介護保険の中では、老健、特養、療養型の間での介護報酬の調整が発生します。介護保険、医療保険、年金間で、保険間の調整が発生します。言わばパイの取り合いが発生します。今一番必要なのはパイを増やすことで、増税や保険料の引き上げをすることになります。

6.原資が増えないので、
メリハリある予算配分が必要

社会保障費は自然増分で年間1兆円かかります。政府はそれを5000億円に抑える予定です。100床の特別養護老人ホーム一つ作るにも13~15億円掛かります。65歳人口は2045年に減り始めます。そのときに減価償却が完了していない施設がたくさん存在することなります。予算の不足で対処できない部分は、在宅に依存し、それを支える在宅支援サービスが必要になります。

7.死に方、死なせ方が
議論されていないことが問題

自宅で亡くなる人は、12.4%まで少なくなっています。病院で亡くなる人は、78.4%にまでなっています。食費、入院費、医療費がタダ、自宅にいるよりも安心だ、ということで、狭い病室に寝かせきりの時期がありました。家族にとって病院に入れておくのは世間体もよいので、この様な割合になりました。しかしこれで良いのか。
もっと死なせ方を議論する必要があります。アンケートの半分以上の人が、自宅で最期を迎えたい、と回答しています。自分が介護が必要になった場合の希望として、大きく分類すると、自宅で介護を受けたい人が74%に至っています。同じ質問で両親に介護が必要になった場合は80%が自宅で介護したいと回答しています。家族の心理面に迷惑を掛けずに、家族に依存せずに生活できる介護サービスを、あまりお金が掛からず、質の高い医療介護サービスの提供が必要です。6時間~8時間の通所介護、リハビリでは、家族が仕事を辞めずに介護することは不可能です。介護報酬は厚生労働省が規定していて、それ以外のことを行っても介護報酬は増えないので、新しいサービスを検討しよう、という動きが生まれにくい業界です。家族の介護・看護を理由に離職、転職した方の数が、毎年10万人程度発生しています。この方々が勤続できれば、納税額が維持でき、介護予算原資になるわけです。

8.在宅を支援するために

在宅介護を支援するサービスには、様々な問題点が見受けられます。
介護が大変で、夜中不穏状態の際に首に手をかけてしまうところまで、追いつめられている場合もあります。介護する家族の負担が軽減できていません。入所中にちょっと騒いだら、「ここでは無理です、精神科を紹介します」と言われる場合もあります。
在宅介護は、利用者、家族のニーズに応じた、臨機応変な対応が必要になります。本人の希望よりも、家族の意思、家族が「介護してもいいなあ」、と思えていることが大切です。そう思えていなければ介護できません。

9.本人のために、よりよく生き、
よりよく死ぬために必要なこと

ICF(国際疾患)モデルから障害を考えると、人間は社会的な生き物なので、様々な活動をしたり、参加をすることで心身の機能は高まる、とされています。ゴミ拾いの活動に参加すると、気持ち良くなります。しょうわのバレーボール部の練習で、90歳以上の利用者が、飛び入りでレシーブをしてしまったりするわけです。環境が変わることで、個人因子の特性に応じて活動や参加をするようになり、心身の機能を向上させることができるのです。これからは、健常な部分を大きくする、多病の高齢者を前提とした、付き合っていく医療モデルに基づいて考えていくことが大切です。頑張って闘って病気を克服するのではなく、病気とうまく付き合っていく、ということです。しょうわにいる間に、どれだけ楽しいことをしたか、有意義なことをしたかが大事です。

10.生きるということ

しょうわでは基本動作を大切にしています。寝返り、起き上がり、座位、立ち上がり、立位、歩行などです。背もたれが無い畳台に浅く座ることで、足にしっかり力が入り、立ち上がれるようになります。寝返りが打てるようになると、風呂にも入りやすくなります。すると、今度は外に出ようか、ということになります。そして、社会参加・活動につながり、誰かのために、という意識が出てきます。これらが生きがいにつながり、働きたいという気持ちになり、頑張って生きていこう、楽しんで生きていこうということになります。良くするのではなく、楽しく生きていこう、という方向につながります。

11.健康長寿について

政府は70歳から80歳まで健康寿命を伸ばそうと検討しています。70歳を過ぎたら健康診断を受けない、という考えもあります。早期の胃癌を摘出しても、5年後には死んでいきます。なんでも健康志向が本当に良いのか、考えるべきところもあります。予防医療・予防介護は人生を本当に幸せにするのか、見方によっては知らぬが仏があってもよいと思います。趣味は定年退職から作るものではなく、10年20年掛けて作るものだとビートたけしも言っています。老化は誰にも止められませんし、老化とともに疾病は増えます。闘っても老化ですから、抗じられません。寿命は誰にも来るのです。いつ死ぬかに違いがあるたけで、誰でも致死率100%なのです。1分1秒でも長生きするのが目標ではなく、生きている間にどの様に楽しんで暮らしてもらうのかが大事なのです。呼吸の安楽や経口摂取(口から食べる)が重要な要素になります。

12.身体拘束について

よく介護現場から受ける相談で、身体拘束はいけないとわかっているが、家族から「絶対に転ばせないで」と言われる、というものがあります。転倒し骨折で寝たきりか、転倒しないように立たせない、歩かせないようにして筋力低下して寝たきりになるか、皆さんはどちらを選ぶのか、ということになります。家族が転ばせたくない理由は、寝たきりになって介護が大変になることと、施設が利用できなくなることを避けたいからなのです。

13.リスク管理

リスクにはやるリスクと、やらないリスクの2種類があります。リスク管理には、コントロールできない環境要因と、コントロールできる個人要因があります。QOL(Quality of Life)から、QOD(Quality of Death)へ、即ち死の質を高めることも考えていく必要があります。
人は生きて、そして死んでいくものなので、死ぬということを前提とした医療と介護が必要になります。好きなものを食べてむせて死ぬのも良いこと、こういうこともあり、と言えます。終わり方を決めればなんでもできるようになります。

施設の見学やご利用についてはお気軽にご連絡下さい TEL 048-718-2111 受付時間 9:00 - 18:00 (土・日・祝日除く)

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