「人間五十年化転の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生を受け滅せぬ物の有るべきか。」
ご存知の方もおられると思いますが、幸若舞の敦盛に出てくる一節です。
「化転」という言葉は、そもそも仏語で、六欲天の一つだそうです。この天は欲するものを化作して楽しませるとされ、長寿で、端正で楽しみの多い世界だそうです。八百歳を一日として、八千歳の長寿を保つそうです。
ところで、私たちは四つの苦しみを負って生まれてくるそうです。生まれる苦しみ、老いの苦しみ、病の苦しみ、死の苦しみ。生・老・病・死。「四苦」というのだそうです。誰一人、この苦しみからは誰も逃れることができません。そこで「化転」のような世界を創造するのかもしれません。しかし、かなわぬ夢の世界です。(以上聞きかじった知識です)
人生五十年といわれたのは戦後まもなくのことでした。その時から半世紀が経ち、今では人生八十年の時代になりました。また最近では「百二十歳まで生きられる」などという科学者も現れました。けれども必ず「滅する時」は巡ってきます。
「滅する時」までに、急ぎすぎず、慌てすぎず、けれどもやり残したことのないように、限られた時を精一杯生きていきたいものです。妥協することなく、諦めることなく、思いのままに生きてみたい。「夢のまた夢」に終らぬように。