朝の来ない夜
夜は果てしなく遠く、どこまでも深く続いていた。空にはわずかな星と、今にも切れてなくなりそうな月が横たわっていた。
僕はどこに向かっているのだろう。僕にはわからなかった。闇に吸いこまれる道を北に向かってただ走った。あてのない道を、いつまでも走り続けた。
いくつかの町を通り過ぎ、いくつもの山が消えていった。
遠くに行きたい。できるだけ遠くに。都会の片隅でも、山奥でも、海原でも。
深く眠りたい。どこまでも深い夜の底で眠りたい。
いつ明けるかわからない夜を走った。
どれほどの時が過ぎたろう。あてのない道のあてを目指して。果てを探して僕は走り続けた。そして僕はたどり着いた。もうこれ以上走ることのできない果ての地に。
そこは静かな水辺だった。そこは星に照らされていた。
月明かりは深い山の背を映していた。果ての地にはだれ一人いなかった。静寂だけがそこにはあった。
夜は甘美だ。程よく発酵した果実。一口食べればやめられない。僕は果実を手に入れた。
さあ、これで眠ることができる。夜の底にまるまって、だれに邪魔されることもなく眠ることができる。朝を気にせずに眠れる。僕はそう思った。さあ、眠ろう。
そしてまたどれほどの時が過ぎただろう。光は僕の頬をてらした。光は僕の眠りを妨げた。その温もりに気付いた時、僕は目を覚ました。
そう、朝が来てしまった。来ないはずの朝が。
僕の計画は振り出しに戻ってしまった。予測と違う今に、僕はうろたえ戸惑った。これからどうすればいいのか。今すぐ答えを出さなければいけない。
もう一度走り出すか。夜を探して走り出すか。
さあどうする。どうすればいい。考えろ。早く答えを出せ。
早くしないとあいつが来る。立ち止まっている暇はない。あいつに気付かれる前に走り出せ。
それからも、朝の来ない夜はなかった。いつも、いつでも夜の後には朝が来た。
たくさんの季節が移ろった。あの時の記憶はもう擦れた。それほどの時が過ぎて行った。
でも僕はここにいる。
そしていま、僕にできること。果てを探すことを放棄すること。
僕にしかできないこと。僕がやらなければならないこと。
夜はまた来る。いつでも夜は来る。
夜には煙草を吸おう。煙は果実を苦くする。煙は夜を曇らせる。
そして朝はまた来る。
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