『介護老人保健施設 職員ハンドブック ’06年度』掲載
平成18年4月の医療保険制度、介護保険制度の改正において、国(厚生労働省、財務省)の今後の要介護者、高齢者に対する医療、介護の方向性が明確に示された。今次改正では、将来予想される医療保険・介護保険の経済的負担軽減の観点からも、在宅医療、介護支援および推進が必要不可欠なものとして明記されている。療養病床の削減はその最たるものである。では、この改正は老健施設にとってマイナスのイメージなのであろうか。答は「否」であり、老健施設にとってはむしろ追い風と考えてよいのではないだろうか。
老健施設は当初、病院と施設をつなぐ「中間施設」として整備されてきた。しかし、高齢者医療、介護環境の変化の中で、平成12年度には介護保険制度が導入され、当初の中間施設から時代の変化とともに、「在宅復帰」「在宅ケア支援」という役割が明確に付与された。これを先取りする形で、平成17年には全老健から、「介護老人保健施設の理念と役割」が提案された。
では、理念がこの環境変化によってまったく別のものとなったのであろうか。「老健施設」の理念と役割」と今回の改正とを対比してみると、それは整合性のとれたものである。改定された「理念と役割」は、老健施設がこれから求められる機能をより具体的かつ明確に提示しただけである。理念そのものは、老健施設制度が創設されて以来、なんら変わりはなく、役割は、その理念達成の手段と考えれば、理念達成のために、その手段を粛々と行えばよいのである。
家庭復帰と在宅ケア支援の現状
在宅ケア支援を考えるときに、対象者を一くくりにして議論するには無理があるのは当然である。各施設にはそれぞれの特徴がある。都市部、郡部などの地域特性、周辺施設の整備状況、運営母体などにより、利用対象者には違いが見られる。
しかし、介護保険制度施行後、在宅復帰率の低下、平均在所日数の長期化という現象が、全国的に見られていることも事実である。
在宅復帰、在宅介護を阻害する要因として、地域特性、住環境、家族構成、状態の悪化(要介護度の上昇)などがあげられてきた。
昨年度の本ハンドブックでは、在宅復帰に焦点を当てた場合、以下のような問題点をあげている。
- 施設利用者の重度化と家族の介護能力(意欲)の問題
- 利用者からみた家庭復帰に対する経済的インセンティブの欠如、とくに要介護3以上となると、在宅での出費が入所時を上回ると思われる
- 要介護認定を受けた者は長期間入所できるという、利用者の権利意識の高まり
- 経済的インセンティブの欠如や現状の運営に満足するといった、施設側の家庭復帰意識の低下
これらの要因を一つずつ検証してみると、真に在宅介護を支援するための阻害要因なのであろうか。平成17年10月に導入された食費、居住費の自己負担化は、少なくとも②の要因については是正されたと言える。
3 の入所の既得権意識も、自己負担増から生じた利用手控えに対して、施設側が顧客の囲い込みを行った結果として、入所を長期化させているという側面も否定できない。
平成16年度の全老健の調査では、在宅復帰を推進する要因として、施設の方針が大きな影響を与えているという結果もある。
4 については、3 に加えて逓減制の廃止が影響していると言えるだろう。
1 については、家族の問題、環境の問題に原因があるようにとらえるむきもあるが、果たしてそうだろうか。3ヶ月前にショートステイの予約がいっぱいになり、入所には何十人待ちで、「いつサービスが受けられるか」という不安が、家族の心を在宅介護から遠ざけてはいないだろうか。
以上を考えると、われわれ自身の意識を変えていかなければならない時期に来ていると言える。
家庭復帰と在宅ケア支援促進のためのポイント
(1) 要介護高齢者に対する家族の理解を支援する
要介護高齢者の在宅支援を考える際に、まず大切なことは、家族の要介護高齢者に対する理解を深めるための援助を行うことである。とくに、認知症の特徴等についての知識、介護の方法、周辺症状への対処方法などは、正しく理解してもらう必要がある。老健施設は個別面談、家族会などをとおして、家族に要介護高齢者理解のための働きかけをすべきである。
併せて、認知症の高齢者を抱える家族には、必要な場合は専門医との連携のもと、家族に受診・治療を促し、症状の緩和を図るとともに助言等を提供すべきである。
(2) 家庭環境の整備
① 家族関係の調整
嫁・姑問題、兄弟姉妹間の介護の押し付け、家族内の介護協力などの問題で、在宅に引き取ることに否定的なケースが多い。家族面談や訪問をとおして家族との信頼関係を築き、とくにキーパーソンとなる主介護者を支えることや、家族内の介護分担についての示唆、緊急時の援助保障などを提供することが大切である。
② 家屋・設備等の改修・整備
段差の解消や手すりの設置等の家屋改修、認知症高齢者に対するガス等の火元管理、鍵の問題、洗剤や薬品等の危険物対策など、認知症高齢者が安心して暮らせる環境整備のための相談に応じなければならない。
(3) 本人・家族への精神的支援
在宅で要介護高齢者をお世話している家族にとって、「何かあったときに支えてもらえる」という安心感が介護意欲に反映する。本人・家族と良好な信頼関係を築くとともに、常時対応の相談窓口、緊急時の訪問態勢、緊急時の入所等のサービスを整備することが大切である。また、家族会などを組織し、家族同士で支え合うシステムをつくることも大切である。
(4) 本人・家族への在宅サービス提供
① 本人・家族の状態、生活パターンに即したサービスの提供
在宅サービス提供に際しては、本人・家族の状況に応じ、介護予防的援助、リハビリ、専門家による治療や助言、レスパイト等を適宜提供する必要がある。
通所サービスに関しては、本人および家族の生活リズムの確立と家族のレスパイトを考える必要がある。土曜日、日曜日の実施、ナイトケア等も実施することが望まれる。
短期入所に関しては、定期的利用、緊急時利用などに対応することが必要である。
その他、定期的なミドルステイ、季節的入所等にも対応する必要がある。
② ケアマネジメントへの家族の参加
カンファレンス、サービス担当者会議等に家族も参加してもらい、家族の意向を十分配慮したケアマネジメントを行うべきである。
③ 入所・在宅をとおした継続的なマネジメント
要介護高齢者の家族には、定期的な施設入所や季節的入所などの要望が強い。とくに、認知症高齢者のケアマネジメントにおいては、比較的長期の入所、在宅をとおしたマネジメントが必要になると考える。
また、緊急時対応を考えると、主にサービスを提供する事業所併設のケアマネジャーが担当するか、施設側とケアマネジャーのより緊密な連携をとる必要がある。
(5) 地域ネットワークの構築と地域社会資源の活用
要介護高齢者のケアは、家族ケアだけでは限界があり、地域社会のなかでケアをする体制等が不可欠である。
① 行政単位の支援ネットワーク(大きなネットワーク)
市町村単位では、徘徊SOSや事業者連絡会議等が現在、機能している。しかし、地域のネットワークで市町村単位のものは、あくまでも基本的なシステムであり、大きすぎて直接的な個人支援にはならない。行政規模のシステムを、いかにして中学校区規模のネットワークに下ろし、機能させるかが重要である。
② 地区単位での支援ネットワーク(中規模ネットワーク)
声かけ運動、近隣訪問、安否確認、公民館活動、地区ボランティア育成などが考えられる。これらの活動にはフォーマルなもの、インフォーマルなものがあるが、現在、要介護高齢者の在宅支援で最も欠けているものの一つがこれである。しかし、地域づくりはここから始まることを考えると、早急に対策を講じる必要がある。
③ ネットワーク間の連携とコーディネーターの養成
上記の2つのネットワークおよび本人・家族を中心とした直接的サービスを提供する小さなネットワーク間の連携の重要性は言うまでもないが、現状ではまったく取られていないに等しい。これは、ひとえにコーディネーターの不在による。ネットワーク内、ネットワーク間の連携をスムーズに行うためのコーディネーターの養成が急務である。
在宅ケア支援の流れ
家庭復帰と在宅ケア支援促進のためのポイントをさらに整理して、施設で実際に取り組むときの具体的な方法を紹介する。
(1) 老健施設の役割・機能に関する地域(利用者・家族)への広報活動
地域との対話が何よりも大切である。日常の居宅サービス(訪問介護・訪問看護など)や居宅介護支援事業活動も、その対話の一部で ある。これらの利用者が多い施設ほど、家庭復帰と在宅支援が機能的に循環している。
また、老健施設の役割・機能を伝えるための広報誌を活用したり、施設の催しに地域住民を招待する、あるいは、地域のために施設を開放する(貸し出す)施設も多い。
広報活動のために「企画室」を設けている施設もある。この施設では、企画室の室員はボランティアの募集・受け入れ、地域と一体となった催し物の企画に携わるなど、地域と施設の窓口としての役割のみを担当しているという。
(2) 入所時から入所期間中の在宅療養へ向けた本人・家族への継続的な働きかけと環境づくり
利用者・家族との信頼関係の構築が大切である。信頼関係は、施設側の日常のケアと相手の気持ちを受け止める姿勢から生まれる。そこで初めて、家族にも心理的なゆとりが生まれ、インフォームド・コンセントによる双方の合意を見出すことができる。
入所中のケアプランは、在宅療養の基礎となるものである。利用者・家族に提示して説明し、必要に応じてカンファレンスに参加してもらうことも大切である。
(3) リハビリを充実してADLの拡大を図る
ここでいうリハビリは、在宅生活を見越したものである。リハビリのゴールとそこに到達する期間を明確に設定し、本人・家族にもそのプログラムとリハビリ計画について同意を得る必要がある。また、リハビリスタッフだけでなく、看護・介護のケアスタッフ、支援相談員、ケアマネジャーなどが一体となって、ゴールへ向けて、それぞれが何をなすべきかを考えて、チームアプローチを基本にケアプランを作成し、実践することが重要である。
高齢者は、「療養生活者」としても「社会人」としても、ADLの向上が図られるべきである。すべての職種がお互いのプランを検討する場がぜひとも必要である。これらの試みが、結果的に高齢者が在宅療養へ移行したときの生活上の工夫や在宅支援サービスの選択につながる。
(4) 在宅ケアサービスの的確な提示と在宅支援プログラムの作成
在宅ケア支援プログラムは、入所期間中の療養プログラムの延長線上にある。ケアマネジャーと施設間の連携がうまく取られている施設ほど、在宅ケア支援も的確に行われている。他施設の居宅介護支援事業所よりも自施設の事業所が関わったほうが、スムーズに在宅生活に移行できるという意見も多い。自施設で多くのケアマネジャーを育成・教育している施設ほど、在宅復帰の件数も多いようである。
また、在宅ケア支援に積極的に取り組んでいる施設ほど、退所前後訪問指導等を重視している。結果的に、家屋改造や介護機器等の紹介なども効果的に実施できている。
(5) サービス提供者・関係諸機関との連携と在宅生活に関するフォロー
家庭復帰・在宅ケア支援に積極的に取り組んでいる施設ほど、外部の関係諸機関との連携にも積極的である。そうした施設には、必ずといっていいほど、連携役のキーパーソンが存在する。在宅ケア支援システムをつくる過程で、人を配置する、育てる、責任を持たせることが大切である。これは、行政側にも言えることである。市町村との連携が取れているという地域においては、行政側にもキーパーソンが存在している。
在宅生活をフォローしていくうえで大切なことは、「各機関の情報の双方向性を高めること」である。
行政レベルでは、サービス事業者の連絡会などが頻繁に行われている地域ほど、在宅ケア支援活動にも活気が見られる。施設レベルでは、訪問時等のすべての情報がケアマネジャーのもとに集積するシステムづくりが大切なようである。
また、ケアマネジャーの資質が在宅ケア支援の成否を左右するという意見も多い。サービスプログラムを組み合わせるだけではなく、問題への介入が的確に行えるケアマネジャーが求められている。
(6) 通所リハビリや短期入所をもっと高齢者本人や家族のニーズに沿ったものに
通所リハビリと並行して通所介護を提供することも考えられる。単身者・高齢者夫婦世帯の利用者に対して、その日の夕食の買い物、下ごしらえなどを職員と利用者が一緒に行っている通所介護もある。利用者は帰宅後、簡単な調理や盛り付けをするだけで、すべてを訪問ヘルパーに頼らなくても生活できるという自信にもつながる。
また、前述したように、「医師配置を厚くした在宅復帰機能の強化」、「在宅での短期集中リハビリ」なども新しいメニューとして考えられる。
これからの在宅ケア支援では、このように、利用者の生活と自施設に求められている機能を考えたサービスメニューを、臨機応変に取り入れることが大切になってくる。
同じ通所リハビリや通所介護を行っていても、施設間の格差がいま以上に顕著に現れる時代になりつつある。
このような状況に立ち遅れないためにも、将来、自施設がどのような運営方針で施設内ケアと在宅ケア支援に臨むのかを明確にすると同時に、具体的なサービスや人員配置を検討しておくことも必要である。
地域包括支援センターなどとの連携
在宅介護支援サービスの組み合わせは、表のように考えてよいであろう(入所ではなく、あえてミドルステイという呼び方を使う)。施設サービスは現在行われているものが中心となるが、この中で、介護者となる家族の介護負担をいかに軽減できるかが、在宅介護を維持するキーワードになる。
表1 在宅介護支援サービスの組み合わせ
施設サービス かかりつけ (馴染み)施設 としての機能 |
通所リハビリ (デイケア) |
・日常の医学管理 ・入浴、排便コントロール ・身体疾患に対する医療行為 ・定時処方せんの発行 |
---|---|---|
ショートステイ (短期入所) |
・介護者のレスパイト機能 ・軽度身体疾患の身体管理 |
|
ミドルステイ | ・ADL改善のためのリハビリテーション ・介護者のレスパイト機能 ・要介護者の身体疾患に対する管理、治療 |
|
在宅サービス | 訪問看護 | ・24時間の医療的な見守り |
訪問 リハビリテーション |
・介護者に対する介護方法の指導 ・要介護者に対する日常生活動作訓練 |
|
訪問介護 | ・見守り、支援 | |
往診 | ・緊急時の対応 ・死亡時の対応 |
在宅介護を行ううえで、家族が負担に思うことは以下のようなことがあげられる。
- 入浴(訪問入浴は要介護者、家族ともに不評であり、施設で入浴できればそれにこしたことはない)。
- 排便後の後始末(要介護度が高くなるにつれ、おむつへの便失禁が増える。在宅ではその臭いや、後始末が、介護者にとってかなりのストレスになっている)。
- レスパイトサービスがきちんと利用できる(結婚式などあらかじめ予定の決まっているときのショートは日にちの確定が必要だが、レスパイトのときには入所日が数日前後しても家族は納得する。つまり、3ヶ月前から順番取りをする無駄の解消となり、施設のベッドコントロールが行いやすくなる)。
- 施設利用中に、急な発熱や(差し迫った生命の危険がない)、不穏などにより、急に呼び出しを受けるのではないかという不安を持ち続ける。
- サービスを使いたいときに使えない。
- 介護者のライフスタイルに合ったサービスメニューが用意されていない。
これらの負担に思うことは、裏を返せば、介護者が最も望んでいるサービスである。
入所待機という話をよく耳にするが、サービス業では「待つ」という言葉はあってはならないのである。10人の待機者がいる場合、ケアマネジャーは複数の施設に入所予約をしなければならない。このとき近隣にグループホームなどの施設が開所されると、そちらに利用者が流れてしまう。
ここで、A、B 2つのスーパーマーケットが隣接していた場合を考えてみよう。スーパーAはレジ待ちの時間を2分以内と定義し、顧客の数に応じて開けるレジの数を増やす。スーパーBは顧客の待ち時間に関係なく、レジの数は従業員の数で決める。つまり混雑時にはレジ待ちで行列ができてしまう。A、Bともに同じような商品を、同じような価格で販売していたとしたら、顧客はどちらのスーパーを選ぶだろうか。当然、待ち時間の短いスーパーAを選ぶだろう。市場原理では当然のこととして、顧客の考えが優先される。
では、現在の老健施設を含む介護保険サービスはどうだろう。上述した1~6の問題は、施設の工夫でいくらでも解決可能ではないだろうか。反論を覚悟のうえで述べれば、スーパーAのように消費者である要介護者、介護者のニーズに合わせたサービスを提供することをせず、スーパーBのように、施設側の都合でサービスを組んでいるから、在宅介護が継続されない、平均在所日数が延び、在宅復帰率が低下しているのである。
たとえば、入浴と排便管理を考えてみよう。自然排便が最もよいことであるのは承知のうえだが、家族の負担を軽減するために、通所リハビリ利用前日に下剤を服用してもらい、通所リハビリで排便を行う。または、通所リハビリ来所時に浣腸を行い、排便してから入浴して帰宅する。家族の負担は確実に軽減されるはずである。すでにケアプランの中には「本人の意向」「家族の意向」という項目があるが、本当の意味での「意向」を理解してサービスを提供しているか。施設の意向が最も反映されたプランを作成していないだろうか。
在宅ケアを支援するためには、まず、根本的にサービスの見直しを図る必要がある。そのうえで、短期入所、通所リハビリ、入所を、その状態に応じて繰り返し利用することで、在宅ケアが継続できる。また、要介護者が連続的、継続的なプランに基づいて、安心して介護サービスの提供が受けられる環境を整備していく必要がある。
ところで、老健施設の役割の一つに「地域に根ざした施設」という項目がある。ともすると、その前段に書かれている、地域住民との交流に目が行き「ボランティアを受け入れています」などとなってしまうが、本当の意味での「地域に根ざした施設」とは、市町村自治体や各種事業者、保健・医療・福祉機関との連携、地域と一体となったケアを提供することではないだろうか。
現在の介護保険では、入所中(ミドルもショートも)は施設ケアマネジャーが、通所は居宅ケアマネジャーがプラン策定を行わなければならない。この方法は、終の棲家、第3の居宅である特養やグループホームなど一度入所したら退所することを想定していない施設群では有効である。しかし老健施設は入所のあとには在宅が、在宅のあとには入所がというように、サービスは連続的に、継続的に提供されることが必要である。一人のケアマネジャーが、一人の要介護者のサービス利用開始時から看取りの段階まで関わっていくことのほうが、より効果的である。
そこで、もう一度「地域に根ざした施設」であり、「在宅生活支援施設」ということを考えてみると、居宅担当のケアマネジャーを施設に呼び込み、入所中のプラン作成に参加することができないだろうか。入所時にサービス担当者会議を開催し、入所中の目標、入所期間、リハビリプログラムなどを共同で作成することで、連続的・継続的なケアプランが策定できる。居宅のケアマネジャーとショートステイやミドルステイ中のプランを共同で策定、評価を行い、退所後のケアプランの一貫性を担保できる。つまり、「地域に根ざした施設」の一方法として、「オープンベッド」の発想を取り入れてみたらどうだろう。ケアマネジャーだけではなく、かかりつけ医や訪問介護担当者、訪問看護担当者が施設に入り込んで、ケアプランを共有すれば、より効果的に連携できると考える。施設のリハビリ担当者が訪問介護担当者に介護方法の指導を行えば、在宅での介護に連続性が出てくる。かかりつけ医に来所してもらい、施設の医師と共同で治療計画を作成すれば、医療の連続性が保たれる。また、地域のさまざまな専門職が施設に来ることで、要介護者の情報の共有が図られるとともに、施設の情報開示にも有効な手段となり得る。
現行法では施設入所時のプランは、施設のケアマネジャーが作成しなければならないことになっている。だから「そんなことはできない」と言われるであろう。しかし、「多職種協働」でケアプランを作成することが今回の改正の目玉である。多職種とは何も施設の職員だけをさすものではない。居宅の職員も協働して、利用者・家族にとってより有意義なケアプラン作成をすることが求められていると考えてもよいのではないだろうか。このような方法を導入し、在宅復帰、在宅ケア支援が図られれば、ケアマネジャーの今後のプラン作成方法は変わっていくと考える。
幸いなことに、居宅ケアマネジャーは39人までという制限がある。いままでのように、とにかく自宅訪問でほとんど時間がなくなるという状況は改善されていく。また施設側も、入所期間を3ヶ月程度に短縮していけば、ベッド稼働率も上がり、在宅復帰加算などの算定も容易になる。
老健施設が老健施設としてあり続けるために
繰り返しになるが、平成14年度の全老健の調査によれば、介護度が高いから在宅復帰ができないという関係は見られなかった。施設長の考え、理事長の考えが在宅介護に積極的であるかということは、在宅復帰率に関係がある。
言い過ぎだという批判を覚悟のうえであえて言わせてもらえば、在宅復帰ができない理由を並べ立てていたら、老健施設の将来は特養化ではないか。
これから老健施設が老健施設としてあり続けるためには、「いかにして在宅復帰率を向上させ、在宅ケア支援を確実に行っていくか」、そして「その結果を国民に示していく」ことである。手遅れにならないように、真剣に考えなければならない時である。
参考文献
佐藤龍司「介護老人保健施設における在宅復帰率改善に向けた試案」;『がんばる!介護リーダー』Vol.9 No.3(日総研出版)