補足給付という言葉をご存知の方はほとんどいないでしょう。平成17年の介護保険法改正では、食費や居住費用は在宅で生活していても同じようにかかるため、介護保険から支給することは適当ではないとされ、全額自己負担となる予定でした。しかし、低所得者が負担増となることに対して反対意見が出されました。結果、所得を4段階に分け1段階、2段階、3段階の利用者負担を減額するために、介護保険財源からその額を負担することとなりました。また、補足給付を受けいれるか、補足給付を受けいれずに全額自己負担(施設側が料金を決定する)か、各施設が決定(部分的に補足給付を受けることはできません)できることとなりました。補足給付を受けない施設は、食費、居住費は施設の判断で決定できます。補足給付を受けると、介護保険から食費として1日1,380円が支給されることとなりました。1段階の人は1日300円を負担すれば1,380円の食事が食べられるようになりました。あわせて、あまり知られていないことですが、4段階の人に対する食費は、施設がいくらに設定しても良いことになりました。つまり1,380円の食事を300円で食べられる人がいる一方、4段階の人は1,380円の食事に1,800~2,000円支払っているのです。法改正が行われる直前には、全国老人保健施設協会で雑談をしていると、「4段階の人には小鉢を1品増やすか」などという議論もありましたが、1品増やして提供しているという話は、その後聞いたことはありません。居住費についても同じ事が起こっています。
しょうわはよく「料金が高い」と言われます。平成17年の法改正直後には、国保連に対して「補足給付を取らないことはおかしい」と苦情を上げた人がいました。このため国保連から調査が入り、是正(補足給付を受けなければならない)指導がありました。県に対して不服を申し立てましたが、県も同様の指導をしてきました。
しかし、わたしはどうしても納得ができませんでした。なぜ納得がいかなかったかというと、そもそも介護保険法改正の前提は、自宅で生活している人は食費や、家賃、固定資産税など様々なお金を自己負担しており、施設に入所している人がそれを負担しないのは不平等だということだったからです。
こんな話がありました。介護保険法が施行されるまでは、老人福祉法に基づき、措置制度によって特別養護老人ホームに入所しました。国民年金だけが収入の人などは、食事も居住費も、ましてや利用するための費用もかからないケースがありました。例えば63,000円*12か月*10年=7,560,000円。つまり10年入所するとこれだけのお金が貯金できました。遺骨は置いて、通帳だけを持っていく家族がいたり、寄付金として施設(社会法人)が受け取ることもありました。医療も同じです。治療食が医療保険から支払われる病院に入院しながら透析を受けている人と、自宅療養しながら透析に通う人の間にも不平等があります。
同じものを食べているのに支払う金額が違うことの不平等。在宅介護を行っている人と、施設入所をしている人の不平等。わたしが第1に納得できない問題です。
日本国憲法第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」としています。この権利を守るために、昨今話題になっていますが生活保護法があります。読者の皆さんには、だんだんややこしくなってきていると思いますが、ここでもう一つ理解していただかなければならないことがあります。それは、共助と扶助の問題です。共助は将来に対するリスクに対して備えるもので、医療保険、介護保険、年金などに当たります。扶助は憲法第25条に基づき、生活保護法を適用し、生活困窮者に対して保護費を支給し生活の安定を図る事です。
わたしが第2に納得できないことは、低所得者の生活を支えるのであれば扶助として行うべきなのに、税金が補てんされているとはいっても、保険料として私たちが将来のリスクに備えるところから支出されることです。実は、埼玉県の指導に対して、以上のような反論書を提出したところ、12年たった今も返答はありません。県からの指導も全くありません。複数の運営を行っている法人では、補足給付を取る施設と取らない施設の両方を運営しているところもあります。補足給付分の費用を本来の介護保険に使うことで、介護現場に携わるすべての職員の昇給財源とすることができます。
ところで、財政再建のために社会保障費が毎年1兆円ずつ増えていくと予想されていたところを、5,000億円に圧縮しました。そして主に社会保障費に充てるはずだった消費税増税は延期され、再々延期の話も出てきています。
高齢者施設や診療所を経営しているわたしが言うのは、あちこちからお??りを受けるかもしれませんが、あえて言わせていただきます。高齢者、低所得者にやさしい福祉を言えば当選できる政治(シルバー民主主義)は、そろそろおしまいにしなければならないと思います。この国の行く末を考え、これから世の中を支えていく若い世代の人が生き生きとできる世の中にしていかなければならないと思います。福祉の業界から優秀な人がいなくなる前に。医療機関、福祉施設みずから消費税増税を訴えなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。医療、福祉には金がかかります。医療、福祉がタダだった時代(1970年代老人医療費無料化や福祉元年といわれた時)はもう終わったのです。無い財源を業界で分捕りあっても徒労に終わるだけです。なぜ怪我をした。事故は起こすな。病気はきちんと見ろ。自己負担や増税でお金を出すのは嫌だけど、質の高いサービスは受けたい。都合のいいことだけ要求する時代はもう終わらせなければならないと思います。
7月1日に、しょうわの厨房は業者委託から直営になりました。長さ12mのオープンキッチンカウンターも完成しました。目の前で作り、出来立てほやほやの食事を毎日提供していきたいと思います。他の施設ではできない食費1,800円にみあった食事と栄養管理を行っていきたいと思います。